神武天皇誕生、秀真伝

ホツマツタヱ2、地の巻27
御祖神船魂の文
タマヨリ姫に白羽の矢、神武天皇の誕生

みをやかみ ふなたまのあや      御祖神 船魂の文
このときに みつほのみやは     この時に ミツホの宮は
とよたまの ふたたひのほる よろこひそ  
豊玉の 二度上る 喜びぞ 
あまのこやねと ものぬしと      アマノコヤネと 物主と 
まてにはへりて みちものへ     左右に侍りて 三千物部 
やもよろくさも をさめしむ      八百万草も 治めしむ 
さきにつみはと たけふつと      先にツミハと タケフツと 
いふきのみやに ふそよかた してをさめしむ        
イフキの宮に 二十四県 して治めしむ
ほつまちは かしまおしくも     ホツマ方は カシマオシクモ
ひたかひこ みしまみそくい はらみやに    
日高御子 ミシマミゾクイ ハラ宮に 
ももゑあかたの もののへと ゆたかにをさむ      
百上県の 物部と 豊かに治む
つくしより しかとこふゆえ     筑紫より 使人請ふ故
かんたちお ものぬしとして     カンタチを 物主として
はてつみと ともにみそふお をさめしむ 
ハテツミと 共に三十二を 治めしむ 
かれにつみはお ことしろと       故にツミハを 事代と 
あすかのみやに はへらしむ      飛鳥の宮に 侍らしむ   
ふつきゆみはり いせむすひ    七月七日 伊勢結び     
かもたけすみに みことのり       カモタケズミに 詔
きさきおつまに たまふへし こふにまかせん        「后を妻に 賜ふべし 請ふに任せん」   
たけつみは こふはおそるる あめのまま      タケヅミは 「請ふは畏るる 天の随」  
みほつめもふす そふつほね        ミホツ姫申す 「十二局
あれとわかまこ すけもとめ         あれど我が孫 スケモトメ
うちめいそより しいおりの        内侍イソヨリ 繁居りの 
なかにいそより しるひとそ         中にイソヨリ 知る人ぞ」
ちちにたつねは うなつきて         父に尋ねば 頷きて     
これたけつみに たまわれは かあひのたちそ       これタケヅミに 賜われば カアヒの館ぞ
うかわみや めとるすせりめ みこおうむ      ウカワ宮 娶るスセリ姫 御子を生む 
いみなうつひこ これのさき        いみ名ウツヒコ これの先 
あねたまねひめ はらをきみ          姉タマネ姫 ハラ央君  
きさきになして みそくいか いくたまはすけ     后になして ミゾクイが イクタマはスケ
いくよりは うちめとなれと たまねひめ     イクヨリは 内侍となれど タマネ姫   
くにてるみやと たけてると    クニテル宮と タケテルと 
うめはなつめか うふきなす    生めばナツメが 産着成す 
さいわひひしは むかしこの うつむろかこむ     幸いひしは 昔この 埋室(うつむろ)囲む
たけこけて すつれはおえる     竹焦げて 棄つれば生える
またらたけ あやにうつして     斑竹  紋に写して
みはのなも さいあいへしと いせのみは       御衣の名も 幸合しと 伊勢の御衣  
うふきにもちゆ もとおりそ        産着に用ゆ 本在ぞ    
ほそのをきれる たけもこれ     臍の緒切れる 竹もこれ   
ときにあすかの みやまかる               時にアスカの 宮罷る  
ははちちひめは のちのよお        母チチ姫は 後の世を
いせにはへれは ををんかみ ゐおおなしくす        伊勢に侍れば 大御神 居を同じくす    
つけききて ははのなけきは つきもなや     告げ聞きて 母の嘆きは 「嗣もなや」
かみのをしゑは はらみやの くにてるおつき     神の教えは 「ハラ宮の クニテルを嗣ぎ
あまてらす にきはやひきみ     天照 ニギハヤヒ君」
もにいりて しらにわむらの みはかなす      喪に入りて シラニワ村の 御墓成す   
のちにとくさの ゆつりうけ        後に十種の 譲り受け  
としめくるひも もにいりて        年回る日も 喪に入りて 
あすかのかみと まつるなり          飛鳥の神と 祀るなり  
さきにみこなく かくやまか               先に御子なく 香具山が
あめみちひめお ゑゑなして   アメミチ姫を ゑゑなして
あにたくりかこ たくらまろ  兄タクリが子 タクラマロ 
なおことなせと はせひめは        猶子となせど ハセ姫は  
とみとにくみて すてさしむ        臣と憎みて(臣下の娘と子だと) 棄てさしむ 
きみまたいかり はせおすつ        君また怒り ハセを棄つ  
かくやまをきみ ははとめし こはめせとこす        香具山央君 母と召し 子は召せど来ず
ふとたまの まこみかしやお     フトタマの 孫ミカシヤを     
つまとして うましまちうむ    妻として ウマシマチ生む
なかすねは おものとみなり     ナガスネは 重の臣なり
みやこには きみむつましく やをかふり     都には キミ睦まじく 弥日経(やをかふ)り
つくしのそやと よそゐよろ     筑紫の十八(万)と 四十五万
としへてをさむ あめひつき   年経て治む 天日月    
ゆつらんために  みこおめす       譲らんために 御子を召す
すへらをみこは をにふより          皇上御子は ヲニフより
みつほにみゆき まみゑすむ         ミツホに御幸 見え済む
ときにわかみや なかにます         時に若宮 中に座す
こやねはひたり みほひこは みきにはへれは コヤネは左 ミホヒコは 右に侍れば
あまきみは みはたのふみお みてつから      天君は 御機の文を 御手づから 
をみこにゆつり まきさきは     上御子に譲り 真后は(トヨタマ姫) 
やたのかかみお ささけもち かすかにさつく        ヤタの鏡を 捧げ持ち 春日に授く
おおすけは やゑかきのたち     大スケは 八重垣の太刀
ささけもち こもりにあたふ     捧げ持ち コモリに与ふ
きみととみ つつしみうくる     君と臣 謹しみ受くる
あまきみと きさきもろとも     天君と 后諸共
しのみやに おりゐてここに かみとなる     シノ宮に 下り居てここに 神となる 
ときよそふすす やもゐそゑ   時四十二鈴 八百五十枝 
きわとしねうと はつきよか        際年ネウト 八月四日
きみのもまつり よそやすみ          君の喪祭 四十八済み  
みことにまかせ おもむろお       御言に任せ 骸を   
いささわけみや けゐのかみ         イササワケ宮 契の神
ゆえはおきなに けゐおゑて    故は翁に 契を得て  
めくりひらける ちおゑたり かとてのけゐそ    恵り開ける 鉤を得たり 門出の契ぞ 
かしはては ひめはおもむろ     膳は 姫は骸
みつはみや むかしなきさに ちかいして     ミヅハ宮 昔渚に 誓いして
みそろのたつの みたまゑて           ミソロの竜の 霊魂得て   
なもあゐそろの かみとなる        名もアヰソロの  神となる 
たみつおまもり ふねおうむ               田水を守り 船を生む  
きふねのかみは ふなたまか           キフネの神は 船魂か 
ふねはいにしゑ しまつひこ  船は往にし方 シマツヒコ 
くちきにのれる うのとりの          朽木に乗れる 鵜の鳥の
あつみかわゆく いかたのり          アヅミ川行く 筏乗り
さおさしおほえ ふねとなす     棹差し覚え 船と成す
このおきつひこ かもおみて     子のオキツヒコ 鴨を見て
かいおつくれは まこのしか        櫂を作れば 孫のシガ
ほわになすなよ かなさきは おかめおつくる          帆ワニ成す七代 カナサキは オカメを造る 
そのまこの はてかみのこの     その孫の ハテカミの子の
とよたまと みつはめとふね    トヨタマと 水侍と船
つくるかみ むつふなたまそ     造る神 六船魂ぞ
みことのり たかはふたかみ はつのみや      詔勅 「タガは二神 果の宮
いまやふるれは つくりかえ  今破るれば 造り替え 
みつほのみやお うつしゐて        ミツホの宮を 移し居て 
つねおかまんと いしへして         常拝まん」と 居敷部して 
ひかせおおやに つくらせて         平かせ大弥に 造らせて 
いとなみなりて みやうつし みくらいにつく  営み成りて 宮移し 御位に就く    
そのよそい あやにしききて     その装い 綾・錦 着て
たまかさり かむりはひくつ     珠飾り 冠・佩・沓
はらののり はなおつくして     ハラの法 華を尽して
そのあすは おおんたからに おかましむかな      その翌日は 大御宝に 拝ましむかな
きあとなつ みくらいなりて いせにつく      キアト夏 御位成りて 伊勢に告ぐ 
あまてるかみの みことのり     天照神の 詔
とかくしおして わかみまこ        トカクシをして 「我が孫   
たかのふるみや つくりかえ         タガの古宮 造り替え  
みやこうつせは あにつきて わのふたかみそ           都遷せば 天に継ぎて 地の悉守ぞ
われむかし あめのみちゑる     我昔 天の道得る
かくのふみ みをやもあみお     橘の文 上祖百編を
さつくなも みをやあまきみ     授く名も 御祖天君
このこころ よろのまつりお きくときは       この心 万の政を 聞く時は   
かみもくたりてうやまえは かみのみをやそ かみのみをやそ         神も下りて 敬えば 神の御祖ぞ   
このみちに くにをさむれは     この道に 国治むれば 
ももつかさ そのみちしとふ     百司 その道慕ふ
このことく これもみをやそ     子の如く これも御祖ぞ
このこすえ たみおめくみて     この子末 民を恵みて
わかこそと なつれはかえる     我が子ぞと 撫づれば還る
ひとくさの みをやのこころ     人草の 御祖の心
すへいれて もものをしての なかにあり      統べ入れて 百のヲシテの 中にあり  
あやしけけれは あちみえす         紋繁ければ 味見えず   
にしきのあやお をることく        錦の紋を 織る如く
よこへつうちに たておわけ           ヨコベ・ツウヂに 経を分け     
やみちのとこは あかりなす     八道の床は 明り成す
かすかこもりと あちしらは        春日コモリと 味知らば  
あまつひつきの さかゑんは         天つ日月の 栄えんは   
あめつちくれと きわめなきかな           天地暮れど 極めなきかな
きみうけて しかさるときに みことのり       君受けて 使去る時に 詔
ふゆいたるひに ををまつり        「冬至る日に 大祭 (大嘗会)  
あまかみとよよ すへらかみ ゆきすきのみや              天神と代々 皇守 ユキスキの宮     
やまうみと とみことたまは     山海と ト尊魂は  
はにすきの なめゑにつけて     埴スキの 嘗会に告げて
ひとくさの ほきいのるなり     人草の 祝祈るなり」
ふたかみは つねにたたすの     悉守は 常にタダスの
とのにゐて あまねくをさむ     殿に居て 普く治む
たみゆたか さくすすなれは     民豊か さく鈴成れば
うえつきて なすすおよへと     植え継ぎて 七鈴及べど
なおゆたか よそこのすすの     なお豊か 四十九の鈴の
こもそひゑ はつほきあゑの     九百十一枝 初穂キアヱの
はつみかに こやねもふさく     一月三日に コヤネ申さく
きみはいま みをやのみちに     「君は今 御祖の道に
をさむゆえ ひとくさのをや     治む故 人草の親
あめつちの かみもくたれは みをやかみ     天地の 神も下れば 御祖守     
よよのみをやの つきこなし     代々の上祖の 嗣子無し
そふのきさきも いかなるや         十二の后も 如何なるや」 
ときにあまきみ われおもふ      時に天君 「我思ふ  
そみすすをいて たねあらし        十三鈴いて 種あらじ」
こもりもうさく よつきふみ  コモリ申さく 「世嗣文   
ありとてあまの おしくもに          あり」とてアマノ オシクモに  
のりしてよつき やしろなす     宣して世嗣 社成す   
ときにおしくも なあてなし       時にオシクモ 「名宛無し」  
こやねふとまに うらなえは やせひめよけん           コヤネフトマニ 占えば 「ヤセ姫好けん  
やひのゐは なかのやとなる     八一の謂は 中のヤとなる  
しのはらは ははとはらめる やのつほね          シのハラは 母と孕める ヤの局   
うちめはなかの くらいなり          内侍は中の 位なり」  
としもわかはの やせひめお          年も若生の ヤセ姫を
そひのきさきも みないはふ         十一の后も 皆祝ふ
おしくもきよめ よつきやに  オシクモ清め 世嗣社に
いのれはしるし はらみゑて          祈れば著し 孕み得て
そゐつきにうむ ゐつせきみ         十五月に生む ヰツセ君   
やせひめみやに いるるまに ついかみとなる      ヤセ姫宮に 入るる間に 費い神となる 
おちなくて ふれたつぬれは     御乳無くて 告れ尋ぬれば
これのさき かもたけすみと     これの先 カモタケズミと
いそよりと そみすすまても     イソヨリと 十三鈴迄も
こなきゆえ わけつちかみに     子なき故 ワケツチ神に
いのるよの ゆめにたまわる     祈る夜の 夢に賜わる
たまのなの たまよりひめお     “タマ”の名の タマヨリ姫を
うみてのち ひたしてよはひ    生みて後 養して齢
そよすすに たらちねともに     十四鈴に タラチネ共に
かみとなる かあひのかみそ     神となる カアヒの神ぞ
たまよりは もまつりなして     タマヨリは 喪祭なして
たたひとり わけつちかみに     ただ一人 ワケツチ神に
またもふて ゆふささくれは     また詣で 斎捧ぐれば
うつろいか うたかひとわく     ウツロイが 疑ひ問わく
ひめひとり わけつちかみに つかふかや        「姫一人 ワケツチ神に 仕ふかや」 
こたえしからす またとわく よにちなむかや      答え「然らず」 また問わく 「余に因むかや」
ひめこたえ なにものなれは おとさんや      姫答え 「何者なれば 威さんや
われはかみのこ なんちはと    我は守の子 汝は」と
いえはうつろゐ とひあかり             言えばウツロヰ 飛び上り
なるかみしてそ さりにける       鳴神してぞ 去りにける  
あるひまたいて みそきなす        ある日また出で 禊なす  
しらはのやきて のきにさす       白羽の矢来て 軒に刺す 
あるしのおけの ととまりて         主の穢気の 止まりて  
おもはすをのこ うみそたつ        思わず男の子 生み育つ   
みつなるときに やおさして       三つなる時に 矢を指して
ちちというとき やはのほる        “父”と言う時 矢は昇る
わけいかつちの かみなりと          ワケイカツチの 神なりと
よになりわたる ひめみこお          世に鳴り渡る 姫・御子を  
もろかみこえと うなつかす         諸守請えど 頷かず
たかののもりに かくれすむ              タカノの森に 隠れ住む
わけいかつちの ほこらなし      ワケイカツチの 祠成し 
つねにみかけお まつるなり         常に御影を 祭るなり
みふれによりて もふさくは          御告れによりて 申さくは 
ひゑのふもとに ひめありて         「日似の麓に 姫ありて  
ちちよきゆえに たみのこの        乳良き故に 民の子の  
やするにちちお たまわれは たちまちこゆる         痩するに乳を 賜われば たちまち肥ゆる  
これむかし かみのこなれと     これ昔 守の子なれど
かくれすむ もりにゐいろの くもおこる      隠れ住む 森に五色の 雲起る
いつもちもりと なつくなり           出雲方森と 名付くなり 
もろかみこえと まいらねは        諸守請えど 参らねば
さおしかなされ しかるへし          直御使 なされ 然るべし」 
ときにいわくら うかかいて        時にイワクラ 窺いて 
つかいおやれと きたらねは          使を遣れど 来たらねば 
みつからゆきて まねけとも  自ら行きて 招けども 
うなつかぬよし かえことす         頷かぬ由 返言す  
わかやまくいか もふさくは          ワカヤマクイが 申さくは
をしかとならて こぬゆえは        「御使人ならで 来ぬ故は
わけつちかみお つねまつる          ワケツチ神を 常祭る  
めせはまつりの かくるゆえなり         召せば祭の 欠くる故なり」
みことのり やまくいおして めすときに      詔 ヤマクイをして 召す時に  
ははこのほれは みたまひて        母子上れば 見給ひて
うちなおとえは ひめこたえ           氏名を問えば 姫答え      
をやのたけすみ いそよりか    「親のタケスミ イソヨリが
なつくたまより はてかまこ         名付くタマヨリ ハデが孫 
こはちちもなく かみなりそ        子は父も無く 神生りぞ
ちちかなけれは いみなせす          父が無ければ 斎名せず 
いつものみこと ひとかよふ         出雲の御子と 人が呼ぶ」 
ことはもくわし すきとほる        言葉も美し 透き徹る 
たまのすかたの かかやけは  珠の姿の 輝けば    
みことのりして うちつほね        詔して 内局      
ゐつせひたせは みこのなも みけいりみこそ      ヰツセ養せば 御子の名も ミケイリ御子ぞ
うむみこは いないいきみそ     生む御子は イナイイ君ぞ
みきさきと なりてうむみこ     御后と 成りて生む御子
かんやまと いはわれひこの     カンヤマト イハワレヒコの
みことなり ときにたねこか     命なり 時にタネコが
たけひとと いみなちりはめ たてまつる    タケヒトと いみ名ちりばめ 奉る  
あまきみみこに みことのり          天君御子に 詔 
つつのみうたに これをして         連の御歌に 「これヲシテ 
とよへるはたの つつねにそなせ      豊へる機の 連根にぞなせ」
これのさき はらのおしくも めしのほす      これの先 ハラのオシクモ 召し上す  
おととひたちは わかきゆえ        弟ヒタチは 若き故 
あはのことしろ はへるみや          阿波のコトシロ 侍る宮
はらからなれは にしひかし          ハラからなれば 西東
かよひつとめて かなめしむ なもつみはやゑ           通ひ勤めて 要占む 名もツミハ八重
ことしろか みしまにいたり     コトシロが 三島(大阪府三島郡)に至り
はらにゆき またみしまより     ハラに行き また三島(静岡県三島市)より
いよにゆく ついにちなみて     伊予に行く 遂に因みて(伊予三島・大三島)
みそくいの たまくしひめも はらむゆえ      ミゾクイの タマクシ姫も 孕む故 
わにのりあはえ かえるうち         ワニ乗り阿波へ 帰る内 
うむこのいみな わにひこは くしみかたまそ         生む子の斎名 ワニヒコは クシミカタマぞ
つきのこは いみななかひこ くしなしそ     次の子は 斎名ナカヒコ クシナシぞ 
あおかきとのに すましむる            青垣殿に 住ましむる
さきにつくしの かんたちは                先にツクシの カンタチは  
そをのふなつの ふとみみお       ソヲのフナツの フトミミを   
やすにめとりて ふきねうむ         ヤス(筑前國夜須郡)に娶りて フキネ生む
のちもろともに かみとなる       後諸共に 神となる 
おおものぬしは ふきねなり          大物主は フキネなり  
とよつみひこと をさめしむ     トヨツミヒコと 治めしむ  
のわさをしえて たみおうむ ひとりおさむる             伸業教えて 民を熟む 一人治むる  
おおなむち みつからほめて     オオナムチ 自ら褒めて
あしのねさ もとよりあらひ    「葦の根方 本より散らひ
いわねこも みなふしなひけ     岩根方も 皆伏し靡け
をさむるは やよほにたれか またあらん      治むるは 弥万年に誰か また現らん」
うなはらひかり あらはれて       海原光り 顕れて 
われあれはこそ なんちその          「我あればこそ 汝その
おおよそになす いたはりそ             おおよそに(巧く・幸に)成す 功ぞ」
おおなむちとふ なんちたそ         オオナムチ問ふ 「汝誰ぞ」 
われはなんちの さきみたま くしゐわさたま         「我は汝の 幸霊魂   奇偉業魂」 
さてしりぬ まつるさきたま   とこにすむ      「さて知りぬ 祭る先魂 どこに住む」
いやかみすます なんちおは あおかきやまに        「否神住まず」 「汝をば 青垣山に
すませんと みやつくりして そこにおれ    
住ません」と 宮造りして 「そこに居れ」 
こなきかゆえに みたるるそ  
p「子無きが故に 乱るるぞ
ことしろぬしか ゑとのこの     事代主が 兄弟の子の
くしみかたまお こいうけて つきとなすへし          
クシミカタマを 請い受けて 嗣となすべし」
みをしゑに みもろのそはに とのなして   
御教えに 御諸の傍に 殿成して
こえはたまはる もふけのこ         請えば賜はる 儲けの子 
くしみかたまとわかつまの            クシミカタマと 若妻の 
さしくにわかめ もろともに        サシクニワカメ 諸共に
すませてぬしは つくしたす               住ませてヌシは ツクシ治す
ひたるのときに これおつく      ひたるの時に これを継ぐ 
ははこいたれは のこしこと        母子到れば 遺し言
このむらくもは あれませる         「このムラクモは 生れませる
みこのいわひに ささけよと         御子の祝ひに 捧げよ」と  
いいていもをせ かみとなる       言いて夫婦 神となる
やすにおさめて まつるのち           ヤスに納めて 祭る後  
つくしをしかの みことのり        ツクシ御使の 詔
のちにくしなし かみとなる            後にクシナシ 神となる 
ははにこわれて をしかすつ        母に請われて 御使棄つ 
かれにつくしの みゆきこふ                   故にツクシの 御幸請ふ   
ときにゐつせに みことのり               時にヰツセに 詔
たかのをきみと おしくもと          “タガの央君”と オシクモと  
くしみかたまと まてにあり      クシミカタマと 左右にあり 
たねこはみこの おおんもり         タネコは御子の 大御守   
みこたけひとは としゐつつ       御子タケヒトは 歳五つ   
またいわくらは みやうちの        またイワクラは 宮内の
つほねあつかり あまきみは             局預り 天君は
つくしにみゆき むろつより       ツクシに御幸 ムロツより 
おかめにめして うとのはま        オカメに召して ウドの浜 
かこしまみやに みそふかみ         カゴシマ宮に  三十二守 
みかりおこえは めくりみて         恵りを請えば 恵り回て 
すたるおなおし たえおたし         廃るを直し 絶えを治し
みなをさまるも いかつちの          皆治まるも  イカツチの
かみのいさおし のこりあり        神の功 遺りあり 
ととせにたみも にきはひて         十年に民も 賑わいて
よろとしうたふ みやさきの         万歳歌ふ ミヤサキの 
きみのみこころ やすまれは          君の実心 安まれば 
よはひもおひて はやきしの        齢も老ひて 早雉の
たかにつくれは おとろきて              タガに告ぐれば 驚きて
みこたけひとと もりたねこ       御子タケヒトと 守タネコ
たかよりいてて にしのみや          多賀より出でて 西の宮
おおわにのりて うとのはま           大ワニ乗りて ウドの浜 
みやさきみやに いたります       ミヤサキ宮に 至ります  
みをやあまきみ みことのり               御祖天君 詔
たけひとたねこ しかときけ          「タケヒト・タネコ 確と聞け   
われつらつらと おもみれは       我 つらつらと 思みれば
ひとくさのみけ しけるゆえ    人草の食 頻る故   
うまれさかしく なからえも        生れ賢しく 永らえも  
ちよはももよと なりかれて        千齢は百齢と 萎り枯れて  
わかやそよろも ももとせも       我が八十万も 百年も
よのたのしみは あいおなし          世の楽しみは 合い同じ
あまてるかみも かえらせは          天照神も 還らせば 
あのみちまもる ひともなし         天の道守る 人も無し
もろともほむる かみもなし            諸共褒むる 神も無し 
なんちふたりも なからえす いつせはこなし        
汝二人も 永らえず イツセは子無し  
たけひとは よのみをやなり     タケヒトは 弥の上祖なり
たねこらも ゑとむそうちに     タネコ等も ヱト六十内に
つまいれて よつきおなせよ     妻入れて 世嗣を成せよ
たけひとは としそゐなれは わかかわり     
タケヒトは 年十五なれば 我が代り
たねこかたすけ をさむへし    タネコが助け 治むべし
しらやのをして たけひとに くにおしらする 白矢のヲシテ タケヒトに 国を領らする
もものふみ たねこにゆつる     百の文 タネコに譲る
わかこころ さきにかかみは おしくもに      我が心 先に鏡は オシクモに  
またやゑかきは わにひこに        また八重垣は ワニヒコに  
さつくおひめか あつかりて        授くを姫が(タマヨリ姫) 預かりて
わけつちみやに おさめおく         ワケツチ宮に 納め置く 
ほつまなるとき おのつから         ほつま成る時 自づから
みくさのたから あつまりて         三種の宝 集りて 
みをやとなすか ほつまそと          上祖と成すが ほつまぞ」と
みやさきやまの ほらにいり        ミヤサキ山の 洞に入り
あかんたひらと あかります             アカンタヒラと 上ります
みこもおつとめ よそやすむ               御子喪を務め 四十八 済む
みそふあつまり あくるなは つくしすへらき        三十二集まり 上ぐる名は 筑紫皇
このよしお たかにつくれは もにいりて      この由を 多賀に告ぐれば 喪に入りて
ひうかのかみと まつりなす       ヒウガの神と 祀りなす
をにふにまつる かものかみ            ヲニフに祭る カモの神 
あひらつやまは みをやかみ   アヒラツ山は 御祖神  
のちにたまより かみとなる  後にタマヨリ 神となる
かあひにあわせ みをやかみ              河合に合わせ 御祖神 
めをのかみとて  いちしるきかな  陰陽の神とて 著きかな