ミミ(耳)の人々

耳を名にもつ人物は多い。

神武天皇の皇子を始め、九州に多いが、広域に広がっており、交易に従事した海人の可能性がある。

神武天皇

神倭伊波禮毘古 (カムヤマトイワレヒコ=神武天皇) 命には、阿比良比売(アヒラヒメ)との間に、多藝志美美 (タギシミミ) 命、岐須美美命(キスミミ) 命。伊須気余理比売(イスキヨリヒメ)との間に、日子八井(ヒコヤイ) 命、神八井耳(カムヤイミミ) 命、神沼河耳(カムヌナカワミミ) 命がいた。

神武天皇が崩御すると、多藝志美美命が父の后である伊須気余理比売を娶った。

 そして、自分の義理の弟でもあり、息子でもある彼女の三人の息子を抹殺しようと謀っていると、母親から知らされた神沼河耳命は、兄の神八井耳命に多藝志美美命を攻めようと進言した。

そこで、神八井耳命は兵を集め、多藝志美美命を攻めようとしたが、恐怖に身体が震えてなにもできなかったので、神沼河耳命が兄の兵を借りて、多藝志美美命を攻め滅ぼした。この時の功名を讃えて御名を『建沼河耳命』と改めた。

 そして、神八井耳命は弟に皇位を継ぐようにと言って、司祭である『忌人イミビト』となったので、建沼河耳命が天皇となった。これが綏靖(スイゼイ)天皇である。


息石耳 イキシミミ


この系譜において、神武期の天国知彦命は小田井県(城崎郡)の県主 生石饒穂命の女 饒
石耳命を娶ったとするが、この「生石饒穂命」の「生石」は「息石耳命」の「息石」に通
じる。本考における「息石
= 出石」の推論はあながち的外れではないのではないか。
5.2 息石耳命と磯城縣主との関係

美含郡故事記に「河内師木県主息石耳命」とある。これは、息石耳命 = 磯城縣主 葉江
の男弟 猪手であるという推論と矛盾しない。「河内師木県主」とあるので、大和の磯城縣
主(葉江の系統;嫡流)に対し、葉江の男弟猪手の系統は河内 志紀郡(志貴縣主神社)に
展開したのではないか(のち多氏が継承)といった想像もしてみたくなる。 

三島溝咋耳

『日本書紀』神代巻では、媛蹈鞴五十鈴媛命が大三輪神の子と記すとともに、事代主神が八尋熊鰐となって三島溝樴姫(玉櫛媛)のもとに通い、生まれた媛蹈鞴五十鈴媛命が神武天皇の后になったと記す。『日本書紀』神武天皇即位前庚申年8月16日条にも同様の記載があり、ここでは玉櫛媛は三島溝橛耳(溝咋耳命)の娘と記されている。

陸耳御笠

丹後における土蜘蛛退治の伝承で最も古いものが、「丹後風土記残缺」に記された陸耳御笠と日子坐王の伝説です

 第十代崇神天皇の御代、陸耳御笠(クガミミノミカサ)と匹女(ヒキメ)を首領とする土蜘蛛が丹後国の青葉山中に棲みつき、人々を苦しめていました。

朝廷は土蜘蛛を討伐すべく日子坐王(ヒコイマスノキミ)率いる官軍を派遣しました。

 日子坐王と陸耳御笠の戦闘の模様は、以後「但馬世継記」に受け継がれます。
 但馬世継記によると、陸耳御笠は海岸伝いに丹後から但馬に敗走し、最期但馬海岸の鎧浦にて日子坐王に討ち取られたとの記録が残っているそうです。

 丹後風土記残缺では、「笠郡」と記して「ウケノコオリ」と読ませている部位がある事から、陸耳御笠は正しくは「クガミミノミウケ」なのかも知れません。
 谷川健一氏は著書『神と青銅の間』の中で、
「ミとかミミは先住の南方系の人々につけられた名であり、華中から華南にいた海人族で、大きな耳輪をつける風習を持ち、日本に農耕文化や金属器を伝えた南方系の渡来人ではないか」とされています。

  

読み 表記 種別
ヤコミミ 記:稲田宮主須賀之八耳神、紀:稲田宮主簀狭之八箇耳 奇稲田媛の父足名椎神の尊称
フテミミ 記:布帝耳神、
国引伝説のオミズヌ神の妻
トリミミ 記:鳥耳神.
大国主神の妻、八島牟遅能神の女
オシホミミ  記:天忍穂耳命、紀:天忍穂耳尊、天忍骨尊、天忍穂根尊 天照大神の子 .
ミゾグイミミ 記:三島溝咋、紀:三島溝杭耳神 神武妃イスケヨリ媛(父は大物主神)の母の父 雲*、神
タギシミミ 記:多芸志美美命、当芸志美美命、紀:手研耳命
神武の皇子、母は吾平津媛
キスミミ 記:岐須美美命
神武の皇子、母は同上
カムヤイミミ 記:神八井耳命、紀:神八井耳命、神八井命 神武の皇子、母は大物主神(事代主神)の女 雲*、神
カムヌナカワミミ 記:神沼河耳命、紀:神渟名川耳尊 神武の皇子、母は同上、綏靖 雲*、神
ヒコヤイミミ 記:日子八井命、旧:彦八井耳命 神武の皇子、母は同上 雲*、神
オキソミミ 紀:息石耳
安寧の皇子、母は事代主神の曾孫 雲*
ワカサミミ 記:若狭耳別(開化記)
日子坐の孫、室毘古の子
スエツミミ 記:陶津耳命(崇神記)、紀:陶津耳(崇神紀) 大田田根子の母(大物主神の妻)活玉依媛の父 雲*
クガミミ 記:玖賀耳之御笠(崇神記)
丹波の豪族
マエツミミ 記:前津見(応神記)、紀:太耳、前津耳、前津見(垂仁紀) 天日槍の妻麻多烏の父(女)
ミスキトモミミ 記:御鋤友耳建日子(景行記)、紀:吉備武彦(景行紀) 吉備臣の祖 .
トヨミミ 紀:豊耳(神功紀)
紀直の祖 .
クシミミ 姓:天櫛耳命 
高魂命の孫、日置部の祖 .
ウマシミミ 姓:味耳命、味日命
高魂命八世孫、久米直の祖 .
ミミ 姓:御身宿禰
天児屋根尊十一世孫、中臣太田連の祖 雲*


出展略記: 記=古事記、紀=日本書紀、姓=新撰姓氏録、旧=旧事記
種別略記: 雲=出雲・但馬・丹波関係 神=神武天皇関係、
      
*大物主神・事代主神は出雲系  *大田は出雲国意宇に由来する