レモン市場の破綻:サブプライム問題と債務担保証券(CDO)市場の損失処理

日本の銀行にも、世界の金融危機の影響が広がってきたようです。
レモン市場 (lemon market) とは、品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまうポンコツ市場のことを、経済学で言うそうですが。昨今の世界の金融は、疑心暗鬼のレモン市場のようです。
今日(2008年11月15日)の日経新聞に、千葉銀行がこの9月中間期決算で不良債権の処理を進めることで、約150億円の損失を計上し、対前期比73%の純利益減となったと報道された。中身はリーマンブラザーズの債券と証券化商品の売却などの損失計上のようである。今回で終わりかと思えば、サブプライムのような債務担保証券(証券化商品)を9月末時点で260億円保有しており、これからも段階的に圧縮していく考えのようだ。
20か国サミットが今開幕されて、世界的な金融危機の拡大への対策が議論されるようです。話題はローン市場全体に広がった信用収縮の解決策にあるようです。一方、FRB議長は「金融市場の緊張は解消されていない」といっていますが、これまでのような、大量資金供給、追加利下げなどで解決できるのか?心配です。日本は、予想通りIMF、世銀、アジア開発銀行などに融資したり出資する案を提案するようですが、問題の所在の認識が違っているのかもしれません。
 金融市場を見る場合、どこに問題の所在だけでなく、事の大小と遠近感が大事なので、以下に整理することにしました。
去年いらい、サブプライム問題などと言われたが、この問題は氷山の一角です。米国におけるサブプライムローン残高は、住宅ローン総残高約10兆ドルのうちおよそ15%程度の1.5兆ドル(2006年末推定値)。
このうち5~6割程度は、MBSとして証券化され、さらにその証券化商品(またはローン等を)を組み合わせてCDO(債務担保証券)が組成されている。このCDOの棄損が大問題のようです。とすれば、CDO市場のゆるやかな縮小を念頭にすえた対策が重要と思います。急に規制強化すれば、大変なことになりそうです。
グローバルな債権市場の膨張と崩壊:CDO市場
2007年中頃、世界では、債権(国債を除く)が8兆ドルも発行されその約半分が証券化されている。実に巨大な証券化ですが、2000年にはこの債権総額は、2兆ドル程度と少なく証券化比率も3割程度と少なかった。2000年以降の金融市場の最大のトピックは、この証券化市場の急膨張と崩壊であったと歴史に記されるようになるのかもしれない。
なかでも問題はCDO(レジット・デフォルト・スワップ)のようです。銀行や保険会社、資産運用会社のCDOへの投資は総額1兆2000億ドル規模に上るとみられている
2006年に販売されたCDOの総額は5003億ドル、その5年前にはわずか840億ドルだった。最近ではCDOを売却して一挙に損失計上する証券会社が増えている。(メリルリンチの場合リスク損失約500億ドル)。
このCDO、かなり割高な評価、つまり「上げ底」で評価計上されている疑惑がくすぶっているもので、売却によりそれが露見しはじめた。
CDOはリスクに応じた分割がなされ、各部分はヘッジファンド、銀行、 資産運用、保険などの投資家に売却されている。
総額1兆2000億ドル(約120兆円)規模に上るこうしたCDOに投資した銀行や保険会社、資産運用会社が抱える損失は、総額6600億ドルに達する可能性があるとも言われている。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)関連のCDOの損失に続「CDO評価損の第2の波」になる恐れがある。
OECDの推計によれば、総額3兆ドルにのぼる債務担保証券CDOの半分近くを保有するのはヘッジファンドである。ファンド勢に信用を供与しているのは、米欧の大手金融機関である。米銀ワコビアによると、過去1カ月にクレディ・スイス・グループ 傘下のクレディ・スイス・オルタナティブ・キャピタル・マネジメントとACAマネジメントの債務担保 証券(CDO)がデフォルト(債務不履行)し、デフォルトの総額は2120億ドル(約21兆9000億円) に増えた。
米国の債券市場の規模:日本の4倍弱の3000兆円!!
モーゲージ債、社債が同程度で大きい。あとは政府機関債と国債です。
ファニーメイやフレディマックなどのGSEの債券(機関債)
出所:米ボンドマーケットアソシエーション2006年3月末現在
2005年の1年間でも41兆円の米国以外からの投資資金の流入があった。これが一斉に引き上げている。
米国では60兆ドル規模の株式市場が大幅下落した時に待避する所として安全な5兆ドルの米国債や機関債に資金が回る構造になっていたが、CDOなどの問題で待避先が不安定になって資金の行き場がなくなってきた。
証券の支払い保証を専業とする保険会社の「モノライン」、会員制投資クラブの「ヘッジファンド」、証券を販売する投資目的会社の「SIV」(ストラクチュアード・インベストメント・ビークル)、銀行ではない金融機関の「ノンバンク」など直接金融の部分が困難に直面している。
預金者の金を企業に商業銀行が仲介する「間接金融システム」よりも、企業が投資銀行を通じて資本市場から資金を調達する「直接金融システム」の方が優れていると金融の専門家や実務家たちは、これまで、声高に語ってきたが、直接金融のシステム全体の信認が問われたといえよう。
日米の住宅投資の違い:証券化しない日本
米国では政府抵当金庫(GNMA)、連邦住宅金融抵当金庫(FHLMC)、連邦抵当金庫(FNMA)といった公的機関が住宅金融の信用補完を行ったり、モーゲージを買い入れ、これを証券化することによって、モーゲージ証券が大きく拡大している。
日本で住宅を購入する場合、銀行ローンであり、値上がりしても値下がりしても、購入者の責任であり、返済不能になれば銀行や保証機関が損をするだけですが、米国は違ったようです。
米国では世界中にこの証券を販売して住宅を建設してきた。世界中の人々が証券投資を行うことで、活況を呈してたくさんの住宅をまずしい人々にまで提供できたとみれば、一見よさそうですが、無理が祟ったようです。
実に複雑な仕組み:関係者多数
1. 機関債に投資者:世界中の個人や会社
2. 格付け機関
3. 証券化しリスク回避を狙った銀行(資産運用で購入もする)
4. 販売した証券会社
5. 保証機関(住宅の場合はファニーメイなどの
これを実現するためには、仕組み債の構成や価格を決めるための金融数学が必要。
・ハイリスク・ハイリターン
金融市場では、ハイリスクな商品はハイリターンとなる。
ここでは、リターンは利回りのことであり、リスクは利回りの変動(分散)である。損失を被る確率の高い商品は引き受け手も少なく、高利でないと買わないということである。
サブプライムは住宅販売側からみれば、返済が滞る確率の高い忍者ローン。NINJAとは、ノーインカム、ノージョブ、ノーアッセトの略。05年から07年までに契約されたローンの60%が忍者ローンであった。
CDOは、格付けが低くハイリターンな部分へ積極的に投資しレバレッジを効かせることで高いIRR(内部収益率)を実現できる仕組みを採ってきた。
・評価間違い
AAAの格付けのある企業は米国でもマイクロソフトなど6社しかないと聞いたことがある。
ところが、低所得者向け住宅ローンの証券化では、ファニーメイなどが保障を付与することでAAA債権として売り出されていた。格付け機関が評価をねじまげたとも言える。
長年に亘って破たんが無く、逆に安定的(変動少なく)に市場価格が上昇してきたことから、リスクが少ないと高評価をあたえたようですが、行き過ぎと批判されている。
・情報開示問題
サブプライムローンは、中身が1000銘柄にもスライスされているプールの毀損をどれだけ正確に測れるか。また購入者にどのように説明できるか。忍者ローンが、リスクに応じてスライスされ、さらに、保障期間の保証付きで格上げなどされて、販売債権の中に混ざっているの。不良債権化しても、どの部分がどの程度不良か計算できないので損失額の評価が困難。
・利益相反問題
2大格付け機関であるS&Pとムーディーズは、ここ数年、債務担保証券(CDO:サブプライムを裏づけにした低格付け債権などを複数集めて証券化した商品)といった複合的債券の格付けでかなりの利益を得てきた。こうした金融商品は、多数の住宅ローンやそのほかの債務の担保とし、同等格付けの社債より高い利回りを得られるように設計されている。格付け機関は格付けを利用する投資家ではなく、格付けの対象である債券発行側から手数料収入を得ているという構造。格付け機関は最高格付けである“トリプルA”を獲得するための極意を債券発行体に伝授する一方で、格付けを決定する際にいわゆるデューデリジェンス(投資適正性の事前調査)をまともに行っていない。CDOを構成する個別のローンが投資適格水準にあるかどうかを評価できていない。
格付け機関の見解:CDOの格付けというものは合衆国憲法が保護している「表現の自由」に基づく意見の表明であり、投資判断を全面的に委ねるべきものではないという見解らしい。
ここまでの結論
1. 米国発のCDO市場の評価損の問題は巨額かつ世界に販売されていることから、解決には時間がかかりそう。
2. 住宅だけでなく、企業債や自動車ローンなど すぐれて金融市場に頼って販売を進めてきた分野が優先的に景気停滞に陥ってくる。
3. 資本注入や政策金利の追加引き下げだけでは、片付きそうもない
4. 世銀やIMFの能力や役割などでも対処できる問題ではない
5. ただちに規制強化すれば、「急激に清算が進み」さらに悪化しそうな問題である
6. リスク資産の再評価をしながら、米国内の不良資産を世界中が協力して、段階的に縮小するような政策が必要かも
7. 「リフレ」か「清算」か、はたまた「個別産業、個別市場むけ景気対策」か? 放置すれば、グローバルなデフレ・スパイラルになりかねない。
世界の債券市場は、機能停止中のところ、暴落中のところなどで、急速に縮小中のようですが、8兆ドルが何兆ドルまで落ち込むのでしょうか。
レモン市場とは:経済学で、レモン市場 (lemon market) とは、品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。レモンとは、アメリカの俗語で質の悪い中古車を意味しており、中古車のように実際に購入してみなければ、真の品質を知ることができない財が取引されている市場(ポンコツ市場)を、レモン市場と呼びます。レモンには、英語で「すっぱい」「うまくいかない」等の意味があることから、転じて「欠陥品」を指すようになったようです。
CDOとは
“Collateralized Debt Obligation”の略で、日本語では「債務担保証券」のことをいう。CDOは、ローン(金銭債権)や債券(公社債)などの債務証書を裏付け(担保)資産として束ねた金融商品で、資産担保証券(ABS)の一つ。担保資産が債券のみで構成される場合は「CBO(Collateralized Bond Obligation)」と呼ばれ、またローンのみで構成される場合CLOはCLO(Collateralized Loan Obligation)」と呼ばれ、CDOはこれらを包括した商品。

13 thoughts on “レモン市場の破綻:サブプライム問題と債務担保証券(CDO)市場の損失処理

  1. リーマンとCDS

    リーマンのCDS清算、地域金融機関に数千億円の損失発生
    経営破たんしたリーマン・ブラザーズを対象とするCDSだけで推計4000億ドル(40兆円)にのぼる。この商品を売った金融機関はほぼ全額を失うことになる。金融危機をきっかけに景気が悪くなれば、CDSによる損失の全体額も膨らみ、それがさらなる不安を招き、株暴落の背景にもなっている。
    米証券大手のリーマン・ブラザーズを対象にしたCDSの清算価値(リカバリー)が、元本の8.625%に決まった
    これにより想定元本(保証金額)の推計4000億ドル(40兆円)のうち、リーマンを「保証」したCDSの売り手金融機関は、リーマンの経営破たんで想定元本の91.375%を支払い、損失を被る。一方、CDSを買った金融機関や企業はその分もうかるわけだ
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  2. CDOによる損失

    国内金融機関のCDOによる損失が、11月28日の新聞に発表された。
    日経によれば、2008年9月末時点の損失が6月末と比べて増加した。
    サブプライム関連の損失は9500億円(6%増)
    それ以外の証券化関連の損失は2兆3230億円(38%増)
    やはり、企業債など証券化商品が増加したのでしょう。保有額が5%減の23兆円になったとの報道なので、今後さらに損失が追加される可能性も高い。預金取り扱い金融機関の自己資本50兆円の約6%がこれまでの吹き飛んだことになるらしい。

  3. 郵貯は?

    郵貯は、200兆円の運用資産(預金など)のうち、ほとんどが国債で156兆円なので、損失は少ない。国債や財投債の引き受け先が郵貯なので、積極的な運用ができなかったことによる。また国債発行されれば、どうなるのでしょうか?。財政赤字が続く中で、郵貯は驚くほど国債運用比率を急増させてきた。

  4. デレバレッジ

    ヘッジファンドの多くは借入金で運用規模を拡大し、運用成績を工場させるレバレッジ戦略を採用。
    これがカネ余りを背景に過剰な信用創造につながった。
    連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の住宅ローン担保証券(RMBS)、地方債、トリプルA格の商業用不動産ローン担保証券(CMBS)などに投資し、それを担保に借り入れてきた。
    これまでならシングルA格のRMBSを担保に差し出せば、その価値の約9割の資金が貸し出されていたが、足元では約5割と大幅に落ち込んでいる。
    金融機関がRMBSの担保評価を引き下げた結果、借入額を維持するには追加担保の差し入れが必要になったが、対応できず債務不履行に陥る。
    このような債権回収が、資金の流れを逆回転させて、デレバレッジ悪影響を一段と深刻にしている。 借入金で自己資金の10倍以上まで運用規模を拡大したところも多く、これらの投資期間が軒並みやられている。
    債権も不良化、株価も下落、借り入れもできない状況が続いている。
    1998年に破綻した伝説のヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)のトップだったジョン・メリウェザー(JM)氏が、現在運用するヘッジファンド、「リラティブ・バリュー・オポチュニティー・ファンド」が今年に入ってすでに運用資産の28%を失い、顧客が資金引き揚ているというニュースもあった。ロシア危機の経験が生きなかったようです。

  5. CDO債務不履行は来期に本格化

    CDSの3大スポンサーであるメリルリンチ、シティグループ、UBSが、デフォルト(債務不履行)に陥ったCDOの大半を保有している
    サンフォード・C・バーンスタインは、債務不履行(デフォルト)増加により債務担保証券(CDO)関連の訴訟が2009–10年に大幅に増加する可能性が高いとの見通しを示した。

  6. ソフトバンク

    ソフトバンク。
    同社が保有する「合成CDO(債務担保証券)」と呼ぶデリバティブ(金融派生商品)に全額焦げ付きの恐れが出てきた、と報じられた。09年3月期にも最大750億円の特別損失が生じる可能性がある。CDOは、買収先の旧ボーダフォンの社債を事実上繰り上げ償還したのに伴って購入したものという。

  7. ドイツ富豪が自殺!

    独メディアが1月6日報じたところによると、ドイツ屈指の資産家アドルフ・メルクレ氏(74)が列車自殺。同氏一族の経営企業が抱える負債は約50億ユーロ(約6300億円)。メルクレ氏の資産は推定92億ドル(約86億円)で、米誌フォーブスが集計する世界の資産家番付では94位にランクされている
    立派な事業家だけに、厳しいニュースです。合掌

  8. 自動車ローンもやはり危機

    2009年5月
    米政府が前日公表したストレステスト(健全性審査)結果でGMACは115億ドルの増資が必要と指摘された。
     ガイトナー長官は同社への支援について、自動車メーカー事業再建の過程では資金の手当てが重要と指摘し、「自動車購入のための融資を行う能力をGMACが持つ必要がある」と説明した。

  9. 資産担保証券市場の現状

    米国の資産担保証券市場の新規発行高は、2006年の1.3兆ドルをピークに、急減し、2008年は0.2兆ドル程度。
    自動車ローン、クレジットカード債権、ホーム・エクイティ・ローン、学資ローン等あらゆる担保資産に関する新規発行及び残高が減少している。
    発行残高もピーク時から、現在までに1兆ドル以上、減少する見込み。

  10. 住宅市場の価格低下

    米国では、ケース・シラー住宅価格指数(10都市)をみると、06年6月をピークに、以後、低下傾向にあり、08年12月までにピーク時から28.3%下落した。さらに、先行きについて、同指数の先物価格をみると、10年5月が底となっており、同月までにピーク時から約41%も低下することが見込まれている。

  11. 金融市場の見方

    M.フリードマンやA.シュワルツらマネタリストによる「貨幣仮説」では、マネーサプライの急減が経済の悪化をもたらしたとし、マネーサプライの減少に対して十分な対策を採らなかったFRBの金融政策の誤りが、大恐慌を引き起こしたとしている。これに対してB.バーナンキ、I.フィッシャーらによる「負債・デフレ仮説」では、物価下落(デフレ)と名目所得の減少による債務負担の上昇が、総需要の減少につながったと指摘する。さらに、C.キンドルバーガーやB.アイケングリーンらによる「金本位制仮説」では、戦間期の経済的覇権国の不在に加え、各国における金本位制への復帰が経済を不安定化させたが、金本位制へのコミットメントにより、各国の財政・金融当局には政策の選択肢がなかったことに原因を求めている。

  12. 金融市場の見方

    貯蓄投資バランスの観点からみれば、こうした家計の借入拡大に伴う消費拡大は経常収支赤字の拡大に対応していた。すなわち、アメリカの消費拡大は各国からの資金フローで支える構造になっていたが、大幅な経常収支赤字それ自体も持続可能なものではなく、いずれ調整が必要とされていた

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